昭和45年に『サラリーマン出門』を
刊行した邱は、昭和60年8月、
転職あるいは独立の道を選ぶ人に向け
『途中下車でも生きられる』を刊行しました。

この作品を執筆、刊行した意図を
のちに出版した『四十歳からでは遅すぎる』で
次のように書きました。

「『途中下車でも生きられる』
という文章を書いたことがある。
電車に乗るために切符を買う。
遠距離の切符の中には、
通用期間中は途中下車を認めるものもあるが、
環状線とか、都内などの近距離だと
『途中下車、前途無効』と書かれている。
日本のサラリーマン人生は
近距離旅行をしているようなもので、
いったん会社に入社して途中で辞めると、
いままでやったことが全部駄目になる。

もちろん、やめる自由は誰にもある。
その代わり、
辞めたらせっかく会社で積み上げてきた努力の大半は
消えてなくなってしまう。
将来、定年になって退職金もフイになってしまうし、
名刺に刷られていた肩書きも、
もう世間には通用しなくなってしまう。

また世間の風は途中で会社を辞める人には冷たいから、
転職しようとしても、
思うような就職先を見つけることができない。
とくに一流会社がライバル会社を辞めた人間を
中途採用することはまずないから、
たとえば三菱商事を辞めた人が三井物産に再就職するとか、
住友銀行を辞めた人が三和銀行に再就職チャンスはほとんどない。

結局頼りになるのは自分の才能と
自分が身につけた経験くらいのもので、
茨の道が待っていることは覚悟しなければならない。

しかし、世間の風がどんなに冷たかろうと、
覚悟ができていれば途中下車はできる。
途中下車をしてバスやタクシーに乗り換えることもできるし、
広野のど真ん中におっぽり出されたのならば、
徒歩で進むよりほかないということも起こりうる。
人生は一ぺんきりのものである。
何も馴染めない仕事や
喜びを感じることのできない仕事に縛られて、
ウツウツとして楽しまない人生を送ることはない。
私自身そう思っているので、
途中下車をして独立をしたり、
転職をすることをすすめたのである。」
(出典『四十歳からでは遅すぎる』)