平成9年に邱は『お金の原則』と題する本を
出版し、そのなかで
「愚者は大富豪を夢見、賢者は中金持ちをめざす」
と次のように書きました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私はつねづね

「愚者は大富豪を夢見、賢者は中金持ちをめざす」
と言っています。

これは、実際問題として、
「実現不可能な目標をかかげてもしようがない」
という意味です。

むかし、阪急の創始者・小林一三さんが
当時の秘書だった清水雅さんを連れてアメリカに行ったとき、
ニューヨークでメーシー百貨店の前を通ったら、
車からパッと降りて、こう言ったそうです。

「こういうのがほんとうの経営者なんだ。
この建物を見ると、第一期工事、第二期工事、
第三期工事とだんだん広げていったのがわかる。
誰だって、最初から大きなことはできないんだ」

これを聞いて清水さんは、
「なんだ、社長は自分のことを言ってる」と思って、
おかしくなったそうです。
阪急百貨店も、はじめは小さくて、
隣りへ、隣りへと広げていったんですね。
ダイエーにしてもイトーヨーカ堂にしても、
最初は何十坪という規模でしかなかった。
それをすこしずつ大きくしていったわけでしょう。

私も、人から何か相談を受けたとき、
できそうもないことは言わないんです。
自分が、もしその人の立場にいたらできるだろうと思う範囲内で、
その人がやるべきことをやっていないときは文句を言うけれども、
高邁な理想を実現しろなどということは言いません。

(出典:邱永漢「お金の原則」)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

引用は以上です。
邱が連載を本として出版する際、
「賢者は中金持ちをめざす」とした
意図がより明確に伝わってくるのではないでしょうか。