『朝は夜より賢い』が
出版される前年の昭和57年に出版された
『食べて儲けて考えて』という本には
“経営者のための邱語録”がいくつか紹介され、
そのの一つとして「朝は夜より賢い」と題したエッセイが
掲載されています。

「『夜の思想』というのがある。
同じ一つのことでも、朝考えるのと、
夜考えるのとでは、展開のしかたが違う。
夜考えると、どうしても過激的になるか、感情的になるか、
破壊的になる。もしくはエロチックになる。
文筆業者にも、夜型と朝型があって、夜型の人の書くものを、
昼日中に読むと、どうにもカッコがつかない。
幸いにも、小説を読む方法も大抵、夜中だったり、
ベッドの中だったりすることが多いので、ちょうどリズムがあう。
おかげでベスト・セラーズ作家になっている人も多いのである。
ところが、どうやって仕事をするか、
どうやって金を儲けるか、
またどうやって摩擦や困難を解決するか、
といった問題は、朝になって考えないとうまく行かない。

最近は、世の中、不景気風に吹かれて頭の痛いことも多いから、
夜眠れなくなる機会がめっきり多くなった。
寝られないままに、ベッドの中で七転八倒しながら対策を考える。
『よし、こうしてやれ』と一大決心をするまでに
長い時間を浪費し、やっとウトウトしたと思ったらもう朝である。
しかし、朝になって昨夜これは名案だと思ったことを
思い出してみると、ちっとも名案なんかじゃない。
夜考えたことは昼間には通用しないのだ。
だから仕事のことを考える人は朝の思想を尊重すべきである。

クヨクヨするな、といってもすぐシャンとできるわけではないが、
クシャクシャくよくよする時は、酒でも飲むか、
音楽でもきいて早く寝てしまうことだ。
夜中のテレビで、何のためにウイスキーをつぐ音を
きかせているかというと、
酒が飲みたくなる時刻だからである。
そういう時は酒でも飲んで寝てしまえばよいのである。
ただし、そういう私も、
いつも安らかに夜をすごしているわけではない。
怒って眠られない夜をすごした翌朝、
改めて『朝は夜より賢い』ことを
再確認しているだけのことにすぎない。
だから、どうぞ今夜は早くお休みなさい」
(「経営者のための邱語録」『食べて儲けて考えて』
《昭和57年》に収録)