邱が子供達と食卓を囲んで食事を楽しむ時、
親が倒産する話と親が死んだ時の話を好んで
話題にしたのはなぜでしょうか。

邱は異国で生活する中国人にとって
頼るべきは自分以外になく、

人生の活路を開くことに真剣になると同時に、
片方では

「いつでも無一文になった時の覚悟ができているか」
と自分に言いきかせることが大切だったからです。

「たとえば、私はコイン・オペのクリーニング屋を
早くはじめたひとりであるが、
お店をつくる時に借店するよりも、
土地、建物ごと買う方を選んだ。
商店街にある10坪か15坪くらいの店舗は、大抵、
二階建てになっていて、階上が二間か三間の住宅になっている。
私は、その二階にあがる度に、
『いざとなったら、一家5人でここに住むことにしよう』
と言うものだから、不動産屋にまで笑われたが、
別に冗談を言ったわけではない。
ビルを建てる度に、マンションをつくる度に、
『いざとなったら、この屋上にすめばよい』
と思いながら、つくったので、しまいには、
『いざという時』に行くところが何十もできてしまった。

しかし、今でも、『万一、全財産を失ったら』という発想が
頭から拭い去られたわけではない。

そういう考え方だから、
うまくいった時の夢も語らないわけではないが、
奈落の底につきおとされた時の場面も想定して、
対策を考える。
とりわけ子供たちは、何不自由ない環境に育っているから、
『いざという時』の用意ができていないと困る。
したがって、食卓を囲んで食事をしながら、
話題はどうしても倒産した時は
どうするかといった問題に集中してしまうのである。」
(『子育てはお金の教育から』)