よく「子供は苦労させなければいけない」
といわれますが

邱は「苦労させないでも子は育つ」という題で
本のまえがきを書きました。

「豊かな世の中になって、子供の育て方もだんだんゼイタクになる。
私たちの学生時代は自転車を買ってもらうのだって
たいへんだったのに、
今の学生はスポーツカーを乗りまわしている者がある。
夏休みを利用した旅行といえば、
アメリカやヨーロッパというもの珍しくなくなった。
着る物だって、食べる物だって、三十年前とは比べものにならない。

はたしてこういうことでいいのだろうかと
首をかしげる親たちは多いに違いない。
これらの人々は自分たちが、
戦中・戦後の物の不足した時代に育ったせいもあるが、
自らふりかえってみて、自分の人間形成の過程で
『苦労したことが一番役に立っている』という信念をもっている。
人間はマイナスの部分があると、
それを克服すべく必死になって努力するので
その文だけプラスとして働く。
マイナスの大きい分だけプラスも大きくなるのである。
だから大人物になった人ほど色々と人知れぬ苦労をしている。
それにひき比べて、豊かな社会に育った若い世代は、
物質的にも恵まれているし、たいした苦労をしていないから、
はたして根性のある人間に育つだろうか、
という危惧を抱かせる。

しかし、だからといって、苦労する状況におかれていない者に、
『苦労してみろ』と言っても無理だし、
また『お前たちは苦労していないから駄目だ』
と頭から否定してかかるわけにもいかない。
私たちだって、苦労したくて苦労したわけでなく、
そういう環境におかれたから、苦労しただけのことである。

今は時代が違うのだから、
ついつい親の方が子供に嫉妬したくなる
けれども、子供たちだって、もし同じような環境におかれたら、
やはりそれなりに悪条件を克服して生き抜いていくに違いない。
してみると、ノビノビ育つことに子供たちの責任があるとはいえず、
むしろ、新しい環境に育った子供たちに、
新しい時代にそくした生き方を教えるのが
親の義務といってよいだろう。」
(『子育てはお金の教育から』)