『邱永漢のゼイキン報告』の「まえがき」の続々編です。

「大抵の人は、税金や税務署員と直面することを避けたいあまりに、
税法の勉強もしないでただ税金を安くする方法はないものかと
考えるが、税法の勉強は、世俗的な意味の金儲けにくらべて
そんなに難しいものではない。
ところが寝食を忘れて金儲けをしても、
税法に通じなければ、無駄な税金を払うか、
表に出せない金ばかりできて、つまらない目にあってしまう。
『節税の勉強も金儲けのうち』なのだから、
『げんなりするほど退屈なこと』などと言わないで、
税金の知識を身につけていただきたいのである。

そうした納税者教育の目的を果たしたというほどの自信はないが、
『ゼイキン報告』は次々と情勢が変わり、税法が改定されて、
内容に現実とそぐわない面が出てきても、なお売れ続けた。
重版をするたびに、出版の担当者は『少し直されますか』と聞くが、
私はほかのことに気をとられているので、
『またこの次』『また機会を見て』と延ばし続けてきた。
それを昭和48年に大幅に書き直したが、
今度『Qブックス』のシリーズを出すことになったので、
最新税法を取り入れて、もう一度、全面的に筆を入れることにした。

9年たって自分の本を読み返してみると、統計数字が変わったり、
不動産や定期預金についての税法が変わったりはしているが、
税法に関する基本的な考え方は
ほとんど変わっていないことがわかる。
また環境がいくら変化しても、社用族も減っていない。
借金経営の方が企業にとって有利という条件も変わっていない。

だから、統計数字を最新のものに直すことと、
不動産の売買や利子所得に関する分離課税などの
特別措置法やその手直しの経緯について筆を加えたが、
屋台骨まで入れかえることにはならないですんだ。

しかし、とにかく装を新たにして出版することになったので、
今度は『邱永漢のゼイキン報告』と改めることにした。」
(『邱永漢のゼイキン報告』まえがき)