「当夜のお客は谷川、脇村両先生のほかに
三楽オーシャン社長鈴木慎朗氏、
きもの学院の長沼静氏、
プレジデント社社長本多光夫氏、
丸井社長青丼忠雄夫妻、
船越敬四郎夫妻、それに大内侯子さん。

食いしん坊はだいたい大食いにきまっているから、
私は四つの冷盆と煎素鶏のあとに、
砂鍋大排翅、湖南風の富貴火腿
(ハムを蜜で煮てパンでサンドウィッチにしたもの)、
老豆腐(豆腐の上にアワビと椎茸をのせて六時間蒸したもの)、
肇菜扒鴨(家鴨を一羽のまま白菜であえたもの)、
生菜包、茶姻鯧魚、排骨花生湯
(豚の骨つきと落花生のスープ)と
かなりおなかにこたえるメニューを組んだが、
それらの料理をつぎからつぎへと
ものの見事に平らげてしまったのにはさすがに驚いた。

谷川先生は骨董品に目がきき、
美術品のコレクターとしても著名だが、
脇村先生は多趣味なことと、
ファッションからアクセサリーに至るまで
世界の一流品に豊富な知識をもっておられる。

大食であることとあわせて、
そういう好奇心の強さが年をとっても
いつまでも若々しい秘密だとお見受けした。」
(「邱飯店のメニュー」)