邱は日米の貿易摩擦が激しくなるであろう、
その結果、日本の企業がアメリカに進出するのではないか
と予想し、その考えを確かめるために
アメリカで不動産投資を試みるようになります。

「私の最初の予想では日本は多分、
すぐお向かいのカリフォルニア州に集中するだろうと考えた。
ことにロスアンゼルスからサンディアゴの間は、
気候風土的にも、土地の広さからいっても、
日本企業の一大工場地帯を形成するには向いている。
そう思ったので、まずリトル・東京に小さなビルを買い、
続いて、オレンジ・カウンティに
小さなショッピング・センターや、
小さなコンドミニアム(マンション)を持つようになった。
これはお金儲けというよりは、
自分が予想した動きが正しいかどうかを確かめるために、
実際に自分で賭けてみなければすまないという
持って生まれた気質から出たものである。

しかもその場合、日本円をアメリカに運んで
アメリカの不動産を買ったのでは話が面白くない。
1ドル250円で日本円をドルに換えて、
アメリカで不動産に投資をして、
仮に値段が倍になったとしても、
1ドルが125円まで下がってしまったら
(そういうことも充分、あり得ると想定しなければ
海外投資はすすめられない)、
元の木阿弥になってしまうからである。
だから私は資本金分くらいの資金は日本から投資するとしても、
それ以外の借入金はすべてアメリカの銀行で借りなければ
意味がないと思っている。
アメリカでお金を借りて、年率12%とか、
13%の高い金利を払い続けることはまことにしんどいことである。
しかし、アメリカの大半の人々は皆、
この高金利に耐えているのだし、
自分もそうしなければアメリカ人の気持ちはわからない。
またアメリカで再度、インフレがドッと表面化したときに
うまくその恩恵にあずかることもできない。
自分としては、
別にそんなにお金が欲しいと思っているわけでもないのに、
こういう勝負にでなければならないのも
身から出た錆と言ってよいのであろうか」。
(邱永漢著『失敗の中にノウハウあり』)