台湾への帰国を誘う2度目の使者、
林氏のあと、すぐに3度目の使者が現れた。

その使者の「台湾国民の民心安定のための
精神安定剤になって欲しい」という言葉が
邱永漢の心を動かしました。

「その先輩が帰ると、
折り返し、治安の元締めをやっている調査局、
かの悪名高きKCIAとほぼ同じ組織であるが
そこの局長のからの使いのものが現われ、
さらに具体的な接触になった。

私は『どうして今頃になって、
私が台湾に帰らなければならないのですか』
ときいた。

すると、その使者に立ったものが言うのに、
『新聞では日本の企業も台湾から引き揚げると
書き立てるし、日本のドル相場は暴落しているのに、
逆に台湾では暴騰している。

これは資本の当否が行われているという
何よりの証拠で、民心が安定しているとはいえない。

こういう時に邱センセイのような
日本の言論界および産業界で信用のある人が
台湾へ帰ってきて投資でもしてくれるというこおtになれば、
”あの邱永漢さんも帰って来たのだからもう安心だ”
といって民心の安定に役立つ。
まあ、簡単に言えば、台湾のトランキライザーの
役割を果たしてもらいたいといいうことです。

ついこの間まで”つかまえたら銃殺にするぞ”
と脅かされていたところから使いがきて、
しかも男の泣きどころ抑えたような話である。

私は、もし台湾に帰って、大臣をやってくれ
といいう話なら、さして心は動かないが、
台湾のGNPを引き上げる仕事に力をかしてくれないか、
と口説かれると、第一に、
これは多くの人々に喜ばれることだし、
第二に男の虚栄心を満足させる仕事である。」
(『私の金儲け自伝』)