邱は一代で業を成し遂げた人たちをとりあげた
『もうけ話』を「経営者会報」に書き、
昭和46年6月、日本実業出版社から刊行しました。

この本の序文は「石割りの名人たち」と題したエッセイです。
「この本を書くにあたって、最初に考えたことは、
金もうけのタネはどこにでもころがっているということである。
世の中が落ち着いて来ると、
新しく無名の新人がわりこむ余地はなくなると誰しもが考える。
また資本のない者が新しく仕事を始めても、
とても大資本にはかなわないというコンプレックスがある。
こうした考え方がいかに間違っているか、
を証明するには戦後の、私たちと同時代に生きている人たちが
どんな方法で自分たちの企業を築きあげていったかを
跡づけるのが一番よいだろう。

経済界は、いつの時代でもそうだが、
競争が激甚だし、資本や実績が物をいう。
それはちょうど私たちの前に
立ちはだかった一枚岩のようなもので、
どこにも私たちの割り込む余地がないかに見える。
しかし、同じ岩を石割りの名人が見たら、
『ウム。ここを割れば、うまくいくだろう』と
事もなげにいうに違いない。

かりに名人でないとしても、
石を割ることに情熱を傾けるほどの人なら、
やがて、石の割れ目はどういう具合になっているかを
発見するに違いない。
経済界の性質をのみこんでいる人にとっては、
競争の激甚なことや過去の競争の勢力分布図などは
さして問題にならないのである」

さて、ここに取りあげた「石割りの名人」は
ホンダの本田宗一郎さん、
ブリジストンタイヤの石橋正二郎さん、
スパーダイエーの中内功さん、
来島ドックの坪内寿夫さん
マザック旋盤、山崎鉄工所の山崎照幸さん、
森ビルの森案吉郎さん
ムトウの武藤鉄司さん、
川島紡績の川島勘市さん、
日動画商の長谷川仁さん、
日本ヴォーグの瀬戸忠信さん
手塚式ゴミ処理プラントの手塚国利氏、
ヒグチ・チェーンの樋口俊夫さん、
手芸糸ハマナカの浜中利基さん、
ハンドラベラーの佐藤陽さん、
そして熱帯魚日本一になった学友の竹腰宏さん
以上15名の方々です。