「矢崎君は自分のことで頭が一杯だったから、
もちろん、一にも二にも賛成するわけはなく、
三つ目の廃刊に対しても、

廃刊にするくらいなら、僕にくれませんか、と言った。

「それもいいだろう。じゃ君あげる」と言って、
私は千九百十万円かけてつくりあげたものを
そっくり矢崎君にあげた。

『話の特集』は今も続いているが、もう往時の面影はない。
人間も年をとるが、雑誌の年のとり方は人間よりずっと早い。
矢崎君は「邱永漢さんに協力してもらっていた頃」
などという書き方をしているようだが、

事実は以上述べてきたとおりである。
才能と人柄はまた別のもので、

私は別に何とも思っていないが、
矢崎君のある時期の才能を最も買ったのは
私であったことに変わりはない。

彼のためにマンションが三室くらい買える大金を注ぎ込んだのは、
数々の文士たちの中で私だけだからである。」
(出典・邱永漢著『失敗の中にノウハウあり』。昭和61年)

結局、『話の特集』は1967年(昭和42年)の
設立から28年目の1995年(平成7年)に倒産しました。