「ハゲに効くクスリと、
水虫に効くクスリを発明したらノーベル賞ものというのは、
実はお互いに全く違ったものではなくて、
相互に関連したものであり、
たぶん、胃ガンに効くクスリと
共通したものと考えたほうがよいらしいのである。

しかし、話をそんな先の先まで飛躍させなくとも、
現に自分の頭に産毛が生えてきたのだから、
これはハゲに悩む人にとっては一大福音であろう
と私は小躍りして喜んだ。

早速『文藝春秋』誌に
「頭に毛の生えた話」と題してこれまでの経過を書いた。

私の一文が載った途端に、反応はワッと巻き起った。
また私の一文を見たテレビ局が私を招き、
ブラウン管で頭の産毛を見せたときは、
私がスタジオから出るやいなや、
テレビ局の電話が割れるような勢いで鳴り出した。

さらに驚いたことに、
その翌日から私の家宛てに届く手紙が
段ボールの箱に入れられてドカッと玄関口におろされ、
数えてみると一日に千通、二千通はザラであった。

いずれもハゲの悩みを切々と訴える手紙ばかりで、
世の中に同じ悩みを持つ人がいかに多いか、
あらためて目を見張る思いがした。」

(『失敗の中にノウハウ在り』)