株式投資に踏み込んだ関係で、
邱永漢は実業界のリーダーたちと
交流する機会が増えた。

その一人がリコー創業者の市村清であが、
邱は水処理の栗田工業に関心を持った。

「私は成長株理論にのって、
『次の成長株は何か」ということに興味を集中し、
ついには病がこうじてまだ店頭株市場にも
顔を出していないような
新興企業にまで首を突っ込むようになった。
そのなかには、立石電機とか日清食品とか
ダイエーとかいったものがあるが、
栗田工業もそのなかに数えられる。

私は工業が発展したら、
川が汚れるから水処理は大きな産業になるだろうと予測していた。
水処理の企業としては、既に『オルガノ』が店頭株に出ており、
第二部市場の成立とともに二部銘柄として、
クロウト筋の注目を浴びていた。

ほかに荏原インフィルコと栗田工業が
業界をほぼ三分していることを私はきいていたが、あ
るとき、株式新聞を見ると、店頭株欄に、
栗田工業が四百六十円という値段で出ていた。

私は早速、その株を買い求め、大阪へ講演に行ったついでに、
栗田工業に電話をして、工場を見せてもらえないかときいてみた。
どうぞおいで下さいといわれて、梅田駅の裏の
スケートリンクの近くにある本社に出かけていくと、
常務をやっていた野崎貞雄さんが出てきて、

「工場といっても、水処理ですから、
それぞれの依頼者の水をもらってきて分析をする実験室しかないんですよ」
なるほど三階建の建物の中には、
これといった機械設備など見当らなかった。」(『邱飯店のメニュー』)