中央公論社は昭和34年に社運を賭して
『週刊コウロン』という週刊誌を発刊しました。
その翌年の昭和35年1月5日、12日合併号で
邱永漢は「株はおとなのお猿電車」と題する
株式評論を書きました。

「私は最初、証券会社の動きをそれとなく見ていて、
証券会社が株を買おうとしているのをあらかじめ察知し、
先回りして買えばいいと考えていました。
しかし、何回かやっているうちに、
証券会社が株を動かしていると思ったのは間違いだ、
と気づいたのです。
もし、証券会社が株を動かしているのなら、
証券会社は株で失敗しないはずです。
ところが証券会社でつぶれるものも出てくる。
経営不振で不正をはたらくところさえ出てくるとなると、
証券会社の動きをみていてもしかたがない、
四大証券とか十大証券といわれる力のあるところでも、
根本のところでは株を動かすことは
できないことがわかったのです。

では証券会社は何をやっているかといえば、
逆にいろんな株がどのように動いているかを察知して、
それにうまく相乗りできるよう自分の動きを決めていく、
といっていいでしょう。
証券会社が株を動かすのではなく、
株が証券会社を動かしているのです。
私は、これを見て、ああこれは動物園の"お猿電車"だなと
思ったものです。
猿が先頭の機関車の上に乗り、
いかにも自分で動かしているように見えるので
"お猿電車"というのでしょう。
しかし、実際のところ、猿は電車を動かしているわけではなく、
動いている電車に乗っているだけなのです。」(『株の原則』)