昭和33年8月婦人公論に発表した
「日本料理は滅亡する」についての
記述の続きです。
「『婦人公論』の編集長を兼任していた嶋中鵬二さんが、
私に『日本料理は滅亡する』を書かせたのは、
多分、私が中華料理に詳しく、
中華料理の立場から日本料理を批判させたら、
面白いものができあがると思ったからであろう。
私は本当は日本料理が大好きで、
殊に年齢を重ねるに従って、
他人からご馳走になるときは、
『日本料理にして下さいね』
とわざわざ注文するほどになったが、
料亭で食べる日本料理の値段の高いことには
かねてから不満をもっていた。
そこで、
『私から見ると、日本料理には二つの特長がある。
まず、美しい器にホンの少しずつ料理が出てくるので、
オルドーブルかと思って食べていると、
つぎにも、そのまたつぎにもオルドーブルが出てくる。
いったい、いつになったら、
メイン・ディッシュになるのだろうかと思っているうちに
、終わってしまうというのが一つ。
もう一つは、庭の見える立派な座敷に通されて、
上等の座布団に坐らされるのはいいが、
メニューに値段が書かれていないので、
最後の最後までお勘定がいくらになるのか、皆目わからない。
日本座敷は落ち着くというが、私のような貧乏性では、
たとえ他人に払ってもらう場合でも、おちおち坐っておられない』
(『邱永漢のメニュー』)