昭和27年(1952年年)12月

邱炳南(邱永漢)の長女が

映画『慕情』に出てくる

香港島のセント・マリー・ホスピタルで

誕生しました。

 

「新しい家を買って引越しをする

少し前に長女の世嬪が生まれた。

香港では出生届を出す時に

英語名前と中国名前を併記する。

 

私は生まれた子供が女なら、

ジョセフィンと名づけるつもりでいたから、

英語名前については迷いがなかったが、

漢字の名前についてはあれこれ思案した。

 

ナポレオンの彼女のジョセフィンには

如世賓という漢字をあてられている。

如は要らないとして、

世賓だけだと男と女の区別がつかない。

 

女扁をつけると、女であることがわかるが、

別嬪さんの嬪になってしまう。

まあ、いいや、ということで漢字名は世嬪にしたが、

世嬪は広東語読みにするとサイパンになる。

幼い時にサイパンと呼んだのが日本に来てもそのまま受け継がれ、

とうとういまも「サイパンちゃん」と

娘はみんなから呼ばれている。

サイパンちゃん、

すなわちうちの長女は一九五二年十二月二十一日、

香港島のセント・マリー・ホスピタルで出生した。

 

映画『慕情』に出てくるあの病院である。

完全看護の病院だから家内が入院すると、

夫の私も家内の家族も、病室から追い出されてしまった。

「女の子が生まれましたよ」と知らせを受けて、

私が自動車ごとフェリーに乗せて香港に渡り、

病院にかけつけてみると、

看護婦さんが子供を哺乳室から抱いてきて、

母親の脇に寝かせてくれた。それが娘との初対面だった。」

(『わが青春の台湾 わが青春の香港』)