藩家の三女、苑蘭(えんらん)と

お見合いした27歳の邱炳南(邱永漢)は

一家のピクニックに誘われたあと、

すぐ食事に誘い、真珠の首飾りをプレゼントをした。

この電光石火の早業が、彼女の兄から怪しまれる

結果を招きました。

 

「また二、三日して、今度は私が彼女を食事に誘った。

香港島側にある

パリジャン・グリルというフランス料理屋に行った。

帰りに、私はポケットから真珠の首飾りを出して、

『僕のプレゼントです』と言って彼女に渡した。

家に帰って家族にそれを見せると、

家中でちょっとした騒ぎになった。

まだ知り合いになって間もない男が、

香水かストッキングのようなつもりで、

そんな高価なものをくれるのは不自然だ。

もしかしたら、何か企みがあるかもしれない。

『返したほうがいいぞ』

と二番目の兄さんが言ったと、

彼女の口からきかされた。

しかし、物議をかもしたのは

彼女の家のほうばかりではなかった。

 

私は十三歳の時から家を離れて、

自分のことは何でも自分でやってきたので、

何でも自分の思うようにすることになれてきた。

 

単純で、世間知らずで、人に騙されやすい、

と周囲には見えたらしい。

その頃、私がよく遊びに行った台湾人で

香港大学出身の蔡愛礼先生という開業医がいた。

私から事の経過をきくと、

『香港の人はちょっとやそっとのことで

知らない人には気を許さない。

 

それが娘を金回りのよさそうな

外江佬(ゴイコンロウ・他所者)に嫁にやろうというのは、

もしかしたら、娘に何か嫁にやれない理由があって、

それを知らない外江佬に

押しつけようとしているのかもしれない』

と私に警戒するよう促した。」

(『わが青春の台湾 わが青春の香港』)