また昭和18年の春には上野公園で桜の花を見ます。

 「小学校の先生から

『花は桜木、人は武士』という文句を覚えさせられた。

そして桜の本当のよさはパッと咲いて

パッと散るところにあると先生は強調した。

それによって私は、

桜が世にも素晴らしい花であることを教えられたが、

しかし、なぜパッと咲いてパッと散るのが

賞賛に値すのかどうしてもわからなかった。

パッと咲くのはいいとしても、

パッと散るようでは第一、植え甲斐がないし、

ずいぶん不経済だと思ったものである。

その桜をはじめて見た。場所は上野公園で、

『花の雲 鐘は上野か浅草か』という句を思い浮かべながら、

さて『来てみれば見れば 何のことはなし富士の山』

に似た心境を味わった。」(『サムライ日本』)

前年の冬に出会った一面の銀世界には

強い印象を受けましたが、春に見た桜には

特段の印象を受けませんでした。