私がはじめて中国人と接したのは
新日鉄君津製鐵所の管理センターの会議室でのことです。
昭和50年代の後半のことです。

中国で改革開放政策がとられ、
その起爆剤として、中国で近代製鐵所を
つくる話が持ち上がりました。
「宝山製鐵」建設プロジェクトです。
このプロジェクトを支援するチームが
私が勤務していた君津製鐵所に設置され、
中国から「宝山製鐵」の建設・運営に
従事する中国人スタッフが君津に来られました。

テーマごとに、中国人スタッフに
新日鉄のスタッフがレクチャーし、
人事・労務関係の話は私が説明しました。

私が説明した後に、質問が一つ出されました。
「職場における袖の下の問題、
お金のやりとりをどう考えているか」
という質問です。

この質問を受けて、私は目を白黒させました。
「職場における袖の下の問題、お金のやりとり」
と言われても何のことかさっぱりわかりません。
そこで、社員が不正を働いた場合の処罰のことを
話して、その場をしのぎましたが、
長い間、「職場における袖の下の問題」
とは何かが問題でした。

が、のちに『邱永漢の海外投資の実際』を読んで、
このナゾが解けました。
邱さんは、台湾には 「紅包」(ホンパオ)といって、
日本の「のし袋」というほどの意味だが、
仕事の能率をあげるための潤滑油のような
ものとして、受け止めればよいと書いています。

この「紅包」(ホンパオ)が中国大陸の企業の
中で、慣習として定着しているけど、
中国の管理スタッフはこれをどうしたら
良いものかと考えていて、
私に質問されたのだということがわかりました。

経済交流のために、互いの文化についての
理解が必要だと知りましたが、邱さんの本には
ビジネスの実際現場で直面する問題が
書かれていることを深く実感しました。