だいぶ道草を食いましたが、
本題である邱永漢さんの「日本、中国、アジア」
についての著作紹介に戻ります。

さて、このジャンルの作品として
これまで『サムライ日本』(昭和34年)、
『会社社会ニッポン』(昭和49年)、
『日本人の堕落』、』(昭和50年)
の三つの著作についてふれました。

が、『会社社会ニッポン』と『日本人の堕落』が
刊行される間に、『邱永漢の海外投資の実際』
(昭和49年)と題する本が刊行されています。
この本は昭和48年から49年にかけ、
『マネジメントガイド』誌に連載した文章をまとめた
本ですが、この本の内容を一言で言えば、
「邱さんの台湾における事業投資の実際体験が
書かれている本」です。

良く知られているように
邱さんは、昭和47年、台湾が国連からの
脱退を余儀なくされ、政治的に世界の
孤児に追いやられた時、国民政府から
三顧の礼をもって、『台湾の人民の
精神安定剤の役割を果たしてほしいと』と
帰国を懇請されます。

23歳の時、中国大陸から台湾に駆け込んできた
国民政府による支配を受けることを好まず、
「台湾は台湾人民の意思で統治することを
希望する」と言う請願書を国連に表明する
活動をしたことで、邱さんは「亡命者」の道を
歩んできたわけですが、台湾が政治的に
最大のピンチに追い込まれた時期に
帰国を要請されたわけです。

帰国の要請を受けて帰るべきか、
あるいは日本に留まるべきか、
邱さんも迷われたことだと思いますが、
邱さんは、帰国の道を選びます。
そして、台湾の経済再建のため、
不安におびえる台湾人民を激励するほか、
自身も、様々な事業を展開します。

この台湾での事業体験について
述べたのが『邱永漢の海外投資の実際』です。
邱さんの体験記として、興味深いだけでなく、
日本の実業界が踏み出すことになる海外投資に
ついての述べた先駆的な役割を果たす作品で、
この本は、昭和60年に第2回目の全集に
『国際感覚をみがく法』と改題して再販されました。