『日本人の堕落』が発刊されてから20年後の平成6年に、
ベスト・セラーズの一冊として再版されました。
その「まえがき」を紹介しましょう。

「コインに裏と表があるように、
物事には必ず良い面と悪い面がある。
『東京タイムス』に 『日本人の堕落』を書いてから、
早くも20年の年月がたったが、今の長期化した
大不況に比べたら、石油ショックの頃はまだまだ
日本経済の成長期であった。
日本のような資源小国がいきなり
2ドルから12ドルに値上がりすることが
どんなに大変なことでえあったかは、
もうすぎてしまったから、誰も驚かなくなっているが、
あのピンチのさなかで石油ショックを克服したことが
日本を一まわりも二まわりも国際競争力のある
大国に鍛えあげた。

日本および日本人の実力はいまや
世界中に広く認められているので、
日本が自ら名乗りでなくとも、日本を国連の
常任理事国に推さなければ、カッコがつかない
ところまできている。

しかし、他の国から見たら、
大金持ちの国になった日本が
一番理想的な国であったかというと、
まず日本人自身がそうは思っていないだろう。

一番ふところ具合のよくなったはずの日本が
世界で一番物価の高い国になって、
豊かさの実感に欠けていることは
日本人自身が自覚しているとおりだし、
経済がこれだけ発展したのに、
依然として政治家不在の国であることは
20年前の日本と少しもかわらない。

しかし、20年前に比べて改まったこともいくつかある。
国鉄を民営に変えたことによって、
あの金食い虫が一転して黒字企業になったし、
成熟化がすすんで企業の収益力が衰えると、
傍若無人な猛威をふるった労組が
あれよあれよという間に勢力失墜してしまった。

ただし、豊かさによってもたらされた日本人の堕落は
総じて日本の社会に定着している。
日本人には自分たちに対する批判を歓迎する傾向が強いから、
この本が出た当時も、私の作品としては珍しく
あちこちに書評が載ったが、
そうした被虐嗜好はいまも昔も大して変わりはないであろう」
(ベスト・シリーズ版『日本人の堕落』。1994年)

邱さんがおっしゃる「堕落」がどのようなもので
そこから恢復するにはどうすれば良いかを考える
参考書としては『日本人の堕落』のほか
『お金があってもえらくない』(平成3年)とか
『金持ちのアキレス腱』(平成4年)があります。