『人の集まる所に金が集まる』には同じ名前の見出しが
ついた文章が掲載されています。

ある時、邱永漢さんが福岡のホテル・ニューオータニに
泊まったところ、どこに言ってもオバチャンだらけで、
また名古屋でビルの最上階にある招福楼という料理屋に
入ったときも、オバチャンたちに占領されて、
家事から解放された女性たちがこの世を楽しんでいる
というところから文章が始まります。

「つまり、今起こっている経済界の大地震は、
現象が私たちに教えてくれる限りでは、過去に
類例のないものであり、一言で言えば『物の動き』から
『人の動き』に変わってきているということである。

生産とは、『人の欲しがるもので不足しているものを
作ること』であり、それがスムーズに行われれば、
経済は順調であり、それを巧みにやれた人は財をなす。
物をつくり、物を動かし、物をお金に換えるーというのが
貧しい社会の経済の主流だったのである。

ところが、生産力がつき、供給がいつでも需要を
満たしてあり余るようになると、物の希少性、心理的効用は
相対的に低下し、人々は今までと違う動きを始めた。

『物流』が『人流』に変わり、人がどこを通るかによって
今度は経済の流れが大きく変わるところに
さしかかってきたのである。

だから、人の動きを見ていれば、
これからの経済がどの方向に動いていくか、
かなり的確な予測をすることができる。

人が動いていくところにお金がついていくので
お金を拾いたかったら、人の動きについていくよりほかない。
デパートに入っても、人は和服や家具の売り場に入らず、
展覧会場か、遊び場か、コンピュータの展示場に入っていく。

レストランはいつも一杯で、帰る人は食料品売り場に行く。
これを見ただけで、デパートの商売がこれから
どんな方向に動くかはわかってします。

一事が万事、この調子だから、
日本の経済はこれから低迷すると言って
心配することはあまりない。
これだけ金持ちになったのだから、
お金持ちがいないわけではない。

お金を払う先が昔と違ってきただけのことである。
お金を尾そしてもらえなくなった分野は店じまいを
するほかないが、皆が喜んでお金を払ってくれる分野は
ドンドン商売が大きくなる。

だから、経済の先を読み、お金を儲けたければー
そんなに難しいことではないー人の動きを見て、
自分の商売をその方向へピタリあわせていけばよいのである。」
(『人の集まる所に金が集まる』)