邱永漢には
「失敗体験はその後の役に立つ」という考えがあり
失敗することをさほど、怖がらなかった
という面があったように見受けられます。

さて、話題の『失敗の中にノウハウありー金儲けの神様が儲けそこなった話』
が刊行され、数年経ってから文庫本盤が発行されました。
そのとき、解説を書いたのが邱の後輩にあたる日下公人です。

このことを念頭にきながら、邱が「もしもしQさんQさんよ」の
第1回目のエッセイを読みましょう。

「とうとうインターネットに登場することに決めました。
どうぞよろしく。
私はかつて『金儲けの神様が儲けそこなった話』と題して、
週刊朝日に自分の失敗談を30回にわたって
連載したことがあります。
このタイトル、もちろん、新聞社がつけたものです。
自分で自分のことを
金儲けの神様というわけがありませんものね。

冗談半分にせよ、人から神様とアダ名された人が
読切り連載で失敗談を30回も書いたのですから
少なくとも30回は失敗したことになります。
ほかに書かなかったこともたくさんありますから、
いままでにどれだけ失敗したか数えきれません。
それでもこりずにこれからも
失敗をくりかえすのが私の人生です。

私の書いた本を読んで、日下公人さんは
『失敗談ばかり書いてどうして邱さんは
 金儲けの神様なんでしょうね』と頭をかしげています。
それに対する私の答えは、
『人は成功から学ぶよりも
 失敗から学ぶことが多いから』です。
もし私が自分の成功したことだけを
くりかえす人生を送ってきたとしたら、
多分、私は失敗したり、損をしたりしないで、
成功者列伝中の人になったでしょう。

でも私はそれでは満足できないのです。
ひとつのことがうまく行っても、うまく行かなくとも、
次の新しい仕事に挑戦します。
いつもやったことのないことばかりですから、
失敗してもおかしくはありません。
でもその度にあんなことをしてはいけないんだな、
こうすべきだったなあと新しい勉強をします。
それが私の血となり、肉となって、
私は少しずつ賢くなります。
本当に賢くなるまでに、
死んでしまっているかも知れませんけれど……。

それでいいんです。
古いことよりも、
これから私が経験しようとしていることを
皆さんと一緒に勉強しましょう。
私は一生書生を心がけているんです。」
(出典 もしもしQさん 第1回「これからも失敗をくりかえすつもり」。
『もしもしQさんQさんよ』に収録)