初の小説『密入国者の手記』を勉強会で

朗読し、さらに雑誌『大衆文藝』への掲載の道を

導いてくれた西川満氏が、プロが使っている

原稿用紙を送ってくれ、ためにしに、

「オール読物新人杯」あたりに

応募してみては励まされました。

 

このアドバイスを受け、邱永漢は

香港、シンガポール、マレーシアを舞台に、

裸一貫から財をなし、再び没落する華僑の話を

書き、応募しました。

 

「西川さんは、私が私の手紙を受け取ると、

すぐに返事をくれた。

満寿屋というところで、五百枚、原稿用紙を送ったが

この原稿用紙はプロの作家も使うもので、

川端康成も坂口安吾も林房雄も、

この原稿を使っている。

 

この原稿を使うと、

不思議に賞などもらってプロになれる。

あなたも、この原稿を使って

実力をためすために

オール読物新人賞あたりにに応募してみたらいかがですか

と書かれていた。

 

私は台湾に2年、香港に6年済み、

ふつうの日本人には想像もできないような

異常体験を積んだので、

体験を一種の貯金と考えれば、

相当の文学的貯金を持っていた。

書こうとすれば材料にこと欠きません。

 

そこでさっそく、

香港、シンガポール、マレーシアを舞台に、

裸一貫から財をなし、再び没落する

主人公が竜福という名前だったので、

『竜福物語』を題し、西川氏の意見に従って

『オール読物』の編集部に

応募原稿として送った。」

(『私の金儲け自伝』)